シリコンバレー物語-研究開発拠点移動の軌跡-

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片岡寛光 著
ISBN978-4-909870-28-5 C0230
新書判 全354ページ
定価:1,650円(本体1,500円+税10%)

2021年1月30日発売

早稲田大学名誉教授片岡寛光による
コンピューター産業の発祥地となったシリコンバレー成立・発展の歴史を詳述!

前著『人間と人工知能-文明論的考察-』
と併せてお読みになるのをお勧めします。
アメリカ、シリコンバレーがいかに世界一の研究開発拠点になったかが理解できます。

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 コンピュータは第二次世界大戦の置き土産である。アメリカ軍は終戦前後から軍部のもっているテクニカルノウハウを何とか民間において温存し、発展させようとして、その仲介役をさせる予定でRANDコーポレーションなどの設立準備に入るが、その設置場所と定められたのは、その構想に協力したサンタモニカにあるダグラス本社内であった。その頃にはすでに軍事産業は全国に拡散されていたが、拠点の一つとなったのが西部であった。戦争の技術が変わり、本土が空襲される可能性も出てきたので、ターゲットとなる危険性のあるものを拡散する必要からであった。戦後に核戦争の危険性が高まると、核抑止戦力によって相手の攻撃を受けても残存する核でもって相手を殲滅するだけのものを用意しておかなければならなかった。そのため内陸では分散してサイロで覆い、海洋では原子力空母に乗せて所在を分からなくする作戦が取られた。
 それに平仄を合わせ、研究開発の基地も分散しておく要請が高まった。これまでは何といってもハーバード大学、MIT、カーネギーメロン大学などが周辺一帯に密集していたボストンがコンピュータ研究の基地として、政府の研究開発費の手厚い保護を受けていた。かつて高等科学研究プロジェクト所長のヴァネヴァー・ブッシュも、AIのいい出しっッペのジョン・マッカーシーもその友人マービン・ミンスキーもMITにいた。それらを分散させるために吹き初めていた風向きを読み、何とか西に向けて、母校のスタンフォード大学をハーバード大学並の産学協同の基地にしたいという野心を抱いたのは、フレデリック・ターマンであった。
 彼はスタンフォード大学の教授の息子で、同大学を卒業後、母校の与望を担ってMITに赴き、ヴァネヴァー・ブッシュ教授の指導により博士号を取得したばかりであった。シリコンバレーが誕生するのは、まずスタンフォード大学を産学協同の基地とし、付近一帯にコンピュータ関係の企業を誘致したいという願いとそれを実現しようとしたひたむきな努力の結果である。

第1部 第3章 研究基地の減数分裂』より


【著者紹介】
片岡 寛光(かたおか ひろみつ)
1934年 北海道札幌市円山出身 政治学博士(早稲田大学)
早稲田大学名誉教授・名誉評議員、中国国家行政学院名誉教授
日本オンブズマン学会名誉理事長
前職:早稲田大学政治経済学部長
   同大学院政治学研究科委員長
   同大学院公共経営研究科委員長
   日本行政学会理事長
   日本オンブズマン学会理事長
   国際行政学会理事
   人事院参与
主著: 行政国家 早稲田大学出版部 1976
   行政の設計 早稲田大学出版部 1978
   国民と行政 早稲田大学出版部 1990
   責任の哲学 早稲田大学出版部 2000
   公共の思想 早稲田大学出版部 2002
   人間リーダー大隈重信 冨山房インターナショナル 2009
   リーダーの世界 成文堂 2013
   現代国家論 早稲田大学出版部 2016
   リーダーの人間学 中央経済社 2018
   人間と人工知能 内外出版株式会社 2020




【目次】
プロローグ
第1部 理論編
第1章 先駆者たちの苦闘の軌跡

 1節 コンピュータを生む合理主義的思考
  1 啓蒙主義の段階
  2 バベッジの幻に終わった分析エンジン
  3 ラッセル・ホワイトヘッド共著『プリンキピア・マテマティカ』
  4 ゲーデルの「不可能性の定理」
 2節 コンピュータの嚆矢チューリング・マシン
  1 チューリング・マシンと「可能性の定理」
  2 外挿法によるチューリング・テスト
  3 機械には思考能力がある
  4 マイクル・スクリーベンの反論
 3節 第二次世界大戦がもたらしたもの
  1 大戦下のビルドアップの急務
  2 ヴァネヴァー・ブッシュのメメックス構想
 4節 ノーバート・ウィーナーのサイバネティックスの理論とジョン・フォン・ノイマン
  1 電気事業の革命をもたらしたウィーナーの研究
  2 サイバネティックス理論の衝撃
  3 ウィーナーの学習する機械
  4 戦争もゲームももとを正せば同じ
  5 ウィーナーはゲーデルの「不可能性の定理」に与するか
  6 神童であったジョン・ノイマン
  7 コンピュータに王道なし
 5節 人工知能AIの初登場
  1 人工知能の概念の登場
  2 ダートマス・ワークショップでの紹介
  3 AI定義の難しさ
  4 タイム・シェアリングの構想
  5 LISPの意義

第2章 第二次世界大戦の副産物
 1節 コンピュータ機器のルーツ
  1 初期の試み
  2 構想から機械へ
  3 ENIGMAの暗号解読
  4 科学研究開発局OSRD長官ヴァネヴァー・ブッシュ
  5 第二次世界大戦の置き土産
 2節 政府主導から民間主導へ
  1 RANDコーポレーションの出現
  2 機械の設計とシステムズアナリシス
  3 システムズアナリシスの実例
  4 国防予算でのPPBSの成功と全予算での失敗
  5 イギリスからアメリカへ、軍部から民間へ
  6 軍産複合体の継続と産学協同
 3節 シリコンバレーへ、バレーへと草木は靡く
  1 平和の到来とコンピュータおよび関連産業
  2 初期の国際競争

第3章 研究基地の減数分裂
 1節 軍産複合体と産学協同を西部でも
  1 西風満帆
  2 第3次西漸運動
 2節 人材の不足
  1 科学技術的に教育された人材の不足
  2 女子の台頭:アン・ハーディのケース
 3節 ベンチマーキングの必要性
  1 どこの国をベンチマークとするか
  2 CEOたちの複雑な心情

第2部 コンピュータ機器と周辺システム
第4章 パーソナルコンピュータとインターネットの出現

 1節 コンピュータの小型化とインターネット
  1 すべてはタイムシェアリングから始まる
  2 端末+インターネットの財としての性格
 2節 4段階のプラットフォーム
  1 プラットフォームとは何か
  2 プラットフォーマーの定義
  3 プラットフォームの機能
  4 プラットフォームと市場とは同じものか
  5 ネットワーク効果
 3節 プログラミングとアルゴリズム
  1 プログラミング
  2 アルゴリズム
  3 核となる数学とプログラマー
  4 プログラマーの倫理
 4節 機械学習から深層学習へ
  1 機械学習の特徴
  2 パターン認識
  3 ゲームでの機械の勝利は人間を越えた証拠とはならない
  4 アルファ・ゴ・マスターには普遍性が欠けていた
  5 深層学習によって複雑さに十分対応しうるか

第5章 AIと関連する諸問題
 1節 人工知能AIの定理
  1 人工知能の定理
  2 再び人工知能とは何か
  3 人工知能は人間を超えるか否かの論争
 2節 二種の学習とパターン認識
  1 機械学習の特徴
  2 パターン認識
  3 未来予測の適不適
  4 深層学習によるAI進歩の危険性
  5 ビッグデータとIoTおよびIoP
 3節 関連する諸制度
  1 サイバースペースの利便性の裏に危険の増大
  2 グローバリゼーションというけれど
  3 国家を跨ぐ課税の問題
  4 プライバシー保護
  5 プライバシーとセキュリティの区別の消滅
  6 EUの2016年「データ保護規則」とマイクロソフトの対応
  7 グーグルのデータに対する新解釈

第3部 人を得てこそのシリコンバレー
第6章 シリコンバレーの経済体制とIT企業の組織構造

 1節 寡占状態の中で機能する独占企業
  1 寡占的独占体制
  2 企業の本丸と競合領域
 2節 独占の変質
  1 独占の性質は変わったのか
  2 創造的破壊の意味するもの
 3節 理論的に独占は有益なのか有害なのか
  1 シュンペーターによる独占礼賛
  2 独占肯定論と否定論
  3 コンピュータ企業の寡占的独占状態
  4 資本のハードからソフトへの転換
  5 ティールによるコンピュータ企業独占讃美
  6 米中の企業の違い
 4節 寡占的独占的企業の内部組織
  1 CEOと企業組織の現実
  2 スティーブ・ジョブズに見る組織運営の一例
  3 AIの生産に既存の企業組織と企業文化は障害か

第7章 シリコンバレーの誕生
 1節 シリコンバレーいざ見参1
  1 シリコンバレーの地理的位置
  2 スタンフォード大学の生い立ち
  3 スタンフォード産業(研究)パークからシリコンバレーへ
 2節 シリコンバレーの恩人たち
  1 フレデリック・ターマン
  2 ジョン・マッカーシー
  3 デビッド・パッカード
 3節 シリコンバレーの虚実
  1 シリコンバレーの人的構成
  2 イデオロギーの雲行き
  3 コンピュータは左傾化の歯止めか?
  4 スーパーマインドは可能か?

第8章 シリコンバレーを彩る人々
 1節 第2世代のCEOたち
  1 マイクロソフトの創立者ウィリアム・ゲイツ
  2 デザインにこだわるスティーブ・ジョブズ
  3 アマゾンの総帥ジェフ・ベゾス
  4 グーグル社の双頭の鷲ペイジとブリン
  5 フェイスブックのマーク・ザッカーバーグの野望
 2節 第3世代のCEOたち
  1 エアビーアンドビーの賑わう創業者たち
  2 ウーバーを立ち上げた男の成功は失敗の元

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